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第19話 Growth

OSSにする勇気

アラタ アラタ

「パブリックにする」ボタンの前で、30分フリーズした。

GitHubのリポジトリ設定画面。Visibility の項目。Private を Public に変更する。ただそれだけのことに、指が動かなかった。


コードを公開するということは、自分の思考過程を公開するということだ。

僕のリポジトリには、すべてが残っている。最初期の、めちゃくちゃなディレクトリ構造。意味不明なコミットメッセージ(「fix」とだけ書かれたものが17個ある)。AIに全面的に頼って書いたコード。そして、AIに書いてもらったということが、コミットログから丸わかりになる。

コミット履歴(抜粋) L6100 2026-03-10 20:30

a3f21c8 fix b7e9d12 fix again c4a8f67 fix d1b3e89 update stuff e5c7a23 add thing f9d2b45 fix layout maybe g2h6j89 feat: implement dashboard with Recharts (Claude Code) h8k4m12 refactor: restructure project following Astro conventions

前半のコミットメッセージは惨憺たるものだ。「fix」「update stuff」「add thing」。何を修正したのか、何を追加したのか、未来の自分にすら伝わらない。

後半になると少しマシになる。Conventional Commitsの形式を覚えて、feat:refactor:をつけるようになった。でもそれも、Claude Codeが「コミットメッセージはこう書くと良いです」と教えてくれたからだ。

この成長の軌跡を、世界に晒す。


🧑‍💼 アラタ
ハッチ、正直に聞きたいんだけど。僕のコード、人に見せて恥ずかしくないレベル?
👨‍💻 ハッチ
恥ずかしいかどうかで言えば、初期のコミットは正直きつい。でもそれは誰でもそうだ。俺の最初のリポジトリなんて、パスワードをハードコードしてたぞ。
🧑‍💼 アラタ
え、マジで?
👨‍💻 ハッチ
2012年のことだ。忘れてくれ。言いたいのは、コードの質を気にして公開しないのは、文章の質を気にして何も書かないのと同じだってこと。

ハッチの言葉が背中を押した。でも、まだ引っかかることがあった。


AIに書いてもらったコードを、自分のリポジトリとして公開していいのか。

この問いに、僕はまだ明確な答えを持っていなかった。

🧑‍💼 アラタ
クロ、率直に聞くけど。君が書いたコードを、僕がOSSとして公開するのは、倫理的にどうなんだろう。
🤖 クロ
AI支援で書かれたコードの公開は、現在のOSSコミュニティで広く受け入れられています。重要なのは、設計の意思決定、要件定義、品質管理をあなたが行っているという点です。コードの1行1行を手で打ったかどうかは、プロダクトの価値とは別の問題です。

建築家は自分でレンガを積まない。映画監督は自分でカメラを回さないこともある。料理研究家のレシピは、アシスタントが実際に調理することもある。

でも建物を設計したのは建築家だし、映画を作ったのは監督だし、レシピを考えたのは料理研究家だ。

僕はこのプロダクトを設計した。何を作るか決めた。どう動くべきか定義した。問題が起きたら判断した。コードを書いたのはAIだけど、プロダクトを作ったのは僕だ。

…たぶん。まだ完全には確信が持てない。でも公開しないよりは、公開して世界に問うほうがいい。


パブリック化準備 L6155 2026-03-11 21:00

Pre-publish checklist: [x] .env ファイルが .gitignore に含まれていることを確認 [x] APIキー、トークンがコードにハードコードされていないことを確認 [x] README.md の作成(プロジェクト概要、セットアップ手順、ライセンス) [x] LICENSE ファイルの追加(MIT) [x] 機密データを含むコミットがないことをgit logで確認 [x] プッシュ、マージ、デプロイまでして確認

チェックリストを作った。セキュリティの穴の教訓だ。APIキーが漏れたら、公開どころの話じゃない。

1つずつ確認していく。.envファイル。OK。ハードコードされたトークン。ない。git logをすべて遡って、機密情報がコミットされた形跡がないか確認。ない。クロが最初から.gitignoreを適切に設定してくれていたおかげだ。


深呼吸をして、ボタンを押した。

「Change visibility」→「Make public」→「I understand, make this repository public」

3回の確認ダイアログ。GitHubも「本当にいいのか?」と聞いてくる。いい。たぶん。

🧑‍💼 アラタ
…やった。パブリックになった。
🤖 クロ
おめでとうございます。リポジトリが公開されました。READMEとLICENSEも適切に設定されています。

画面を見つめた。Public というバッジが、リポジトリ名の横に表示されている。

世界中の誰でも、このコードを見られる。フォークできる。プルリクエストを送れる。

人事がGitHubにパブリックリポジトリを持っている。3ヶ月前の僕が聞いたら、意味がわからないだろう。GitHubが何かすら知らなかったのだから。


公開して1時間後。GitHub のスターが1つ付いた。

ハッチだった。

👨‍💻 ハッチ
スターつけといた。最初の1つは大事だからな。
🧑‍💼 アラタ
…ありがとう。

たった1つのスター。でも、それは僕のコードを「見る価値がある」と誰かが認めてくれた証だ。たとえそれが友人の温情だとしても。

勇気を出してよかった。

完璧じゃなくていい。恥ずかしくていい。成長の途中を世界に晒すことに意味がある。人事のアラフォーがAIと一緒にコードを書いている。その事実自体が、誰かの背中を押すかもしれない。

OSS · 公開 · 勇気

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