ログを数えた。
深夜1時、テーブルにコーヒーを置いて、9,336行のログファイルを開いた。自分がClaude Codeに送ったプロンプトの数を、一つずつカウントした。正確に言えば、スクリプトを書いてカウントさせた。半年前の自分なら「ログを数える」という発想すら浮かばなかったし、そのためのスクリプトを書くこともできなかった。
結果は、2,585回。
2026年1月19日の最初のプロンプトから、今日までに僕がAIに送った問いかけの数。平均すると1日あたり約17回。多い日は50回を超えている。
最初のプロンプトは、今でも覚えている。
アラタ: how do i log errors
6単語。英語。なぜ英語だったのかは今でもわからない。プログラミングは英語でやるものだと、どこかで思い込んでいたのかもしれない。そして「エラーをログする」という概念すら、正確には理解していなかった。
50回目のプロンプトは、2日後だった。
アラタ: なんかエラー出た。ReferenceErrorって書いてある。何これ?
日本語になっている。そして、エラーメッセージをそのまま貼り付けるようになっている。小さいけれど、確実な進歩。「何がわからないか」を伝える能力が上がっている。
500回目のプロンプトは、2月の終わりだった。
アラタ: Content Collectionsでブログ記事のスキーマを定義したい。titleはstring必須、pubDateはdate、tagsはstringの配列でオプショナル。Zodで書いて。
明らかに変わっている。技術用語を使っている。何がほしいのかを具体的に伝えている。「Zodで書いて」という指定まである。500回の対話で、僕はAIとの会話の仕方を学んでいた。
Zodスキーマの定義ですね。Content Collectionsの設定ファイルにこう書きます。
descriptionも追加して。SEO用にstringで、最大160文字のバリデーションつけたい。
500回目の時点で、僕は「追加の要件を重ねる」ことを覚えていた。最初のプロンプトで完璧な指示を出す必要はない。対話の中で、要件を育てていけばいい。人事の1on1で学んだスキルが、AIとの会話に転用されている。
1,000回目。3月の半ば。
アラタ: GitHub Actionsのcronワークフローを作成して。毎日JST 7時にGA4のAPIからデータを取得して、data/ga-analytics.jsonに保存する。認証はサービスアカウントのJSON鍵をGitHub Secretsに格納する設計で。エラー時はSlack通知。
1,000回目のプロンプトは、もはや「質問」ではない。「設計指示」だ。技術選定、データフロー、認証方式、エラーハンドリングまで含まれている。
2,000回目。5月の中旬。
アラタ: STOMPSプラットフォームのマルチテナント設計を始める。site.config.tsでサイト固有の設定を一元管理して、共通コンポーネントはpropsで差分を吸収する方針で。まずは設定ファイルのスキーマ設計から。
そして2,585回目。昨日のプロンプト。
アラタ: マルチエージェントを使って全体のPMとそれぞれの要件定義および実装を進めて。worktreeで並列実行。サブエージェント1はフロントエンド、サブエージェント2はAPIルート、サブエージェント3はテスト。全体の整合性はメインエージェントが管理。
「how do i log errors」から「マルチエージェントを使って全体のPMとそれぞれの要件定義および実装を進めて」まで。
この2つのプロンプトの間に、2,583回の対話がある。611日間の積み重ねがある。
ハッチ、聞いてくれ。俺の最初のプロンプトと最新のプロンプトを比べたら、別人みたいだった。
見せろ。……ああ、これはすごいな。最初のは「ググる前の状態」で、最新のは「テックリードの指示」だ。
テックリードは言い過ぎだろ。
いや、指示の構造はテックリードレベルだぞ。スコープ定義、技術方針、タスク分割、品質管理の責任分担。全部入ってる。お前が自覚してないだけだ。
成長は、問いの質に現れる。
人事の面接でも同じことを感じていた。良い候補者は、良い質問をする。「御社の福利厚生は?」と聞く人と「このポジションが生まれた背景と、最初の半年で期待される成果は?」と聞く人。問いの質が、その人の思考の深さを映し出す。
2,585回のプロンプトは、僕の思考の変遷そのものだ。何がわからないかすらわからなかった人間が、何を作りたいかを明確に言語化できるようになるまでの記録。
2,586回目のプロンプトは、たぶん明日打つ。何を聞くかはまだわからない。でも、1回目より良い問いになることだけは確かだ。